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【条件次第】光速よりも速い現象

 光は我々の目ではとらえられないほど速い。部屋の電気をつけた時、電灯から発せられた光は天井、壁、床を照らしながら我々の目に入ってくる。この速度はきわめて速いもので、秒速にして299,792,458m(約30万km)。「1秒間に地球を7周半できる」などと表現されている。

 ここで重要となるのは、「光速度はこの宇宙の物質が出せる上限速度」ということだ。かの著名な物理学者アインシュタインの残した方程式によれば、物質が光速に近づくとその質量は際限なく増大し続け、無限大に近づくとされている。それ以上加速するには無限大のエネルギーを費やすしかないのだが、そんなものは用意できないため、光速度を超える物質は現れない。これは半ば必然的なものだ。

 しかし、光よりも速く移動できるものがないというこの宇宙の制約を打ち破る現象がすでにいくつか見つかっている。にもかかわらず、この宇宙の因果律などは正常なままである(少なくとも我々にはそう見える)。今回はそんな「光速よりも速い現象」をいくつか紹介していきたい。

光速度を超えているとされる現象

量子のもつれ

 物質は原子と分子で構成されている。だがそこで終わりではない。原子はさらに細かくすることができ、原子核と電子に分けることができる。だが原子核もさらに細かくすることができる。そうして、可能な限り分解していって最終的に残ったもの、つまり物質の最小単位が素粒子であり、それを研究する力学が量子力学である。

 1mmの1000万分の1にも満たないミクロの世界では我々が知っている物理法則では説明のつかない現象がしばしば起こっている。そのひとつが「量子のもつれ(量子エンタングルメント)」だ。この現象には、「上向きスピン状態」と「下向きスピン状態」が重なり合った2つの粒子のペアが関係している。この2つの粒子は強い相関関係にあり、片方が観測され、スピンの向きや運動量が確立するともう一方も瞬時に状態が決定される。

 例えば、ミクロの粒子Aと粒子Bが別々の方向に飛び続け、両者が銀河の両端に位置した時に片方の粒子Aのみを観測したとする。すると、粒子Aが観測されたという事実が即座に粒子Bに伝達され、粒子Bのスピンの向きや運動量が確定するのだ。この相互作用の速度は真空中の光速度を上回る。

 この現象は、かのアインシュタインをもってして「不気味な遠隔操作」と言わしめたほどで、自らが提唱した相対性理論の原則「情報や物体が光速度を超えて移動することはない」に反していることを受けて、あくまでの見かけ上のもの(もしくは”隠れた変数”なるもの影響)であるとする立場をとった。しかし、フランスの物理学者アラン・アスペらによる実験によって、この現象が実際に起きていることが確定的となった。2019年にはイギリス・グラスゴー大学が写真に収めることに成功している。 

 

宇宙の膨張速度

 宇宙は138億年前にビッグバンによって誕生し、インフレーションと呼ばれる凄まじい膨張とともに現在もそのまま膨らみ続けている。この現象は宇宙全体に均一に発生している。

 20世紀になると、宇宙がどのくらいの速さで膨張しているのかが徐々にわかってきた。赤方偏移から算出される銀河が我々から遠ざかる後退距離を「V」、銀河までの距離を「r」とし、この2つの相関関係を

V=Hr

で表せる法則を「ハッブル=ルメートルの法則」という。この「H0」はハッブル定数と呼ばれる値で、宇宙の進化やΛ-CDMモデルにおける基本的なパラメータとなっている。なお、ハッブル定数は幾度も改定されており、2020年には観測チーム「SH0ES」が70.50 ± 2.37km/s/Mpc(1メガパーセク、326万光年)という観測結果を発表している。これは、地球から1Mpc離れるほどに70kmほど速く膨張していることを意味する。

 ハッブル定数が宇宙全体で時間によらず一定であるならば、後退速度(V)は地球から離れるごとに指数関数的に大きくなる。1Mpc離れた銀河で70km/sの速度で遠ざかっているならば、10Mpc離れた地点では700km/sほどの速さになっているはずだ。そのため十分に離れた天体の後退速度は光速度を上回っていると予想されている。この距離はハッブル距離と呼ばれている。

 相対性理論をよく知っている人ならば、情報が光速度を超えることなどありえないとして反論するだろうが、この超光速膨張は相対論と矛盾しない。なぜなら、光速度を超えている場所から発された信号は我々には届かず、そもそも観測することすら不可能だからだ。宇宙空間そのものは質量をもった物質ではないため、宇宙の速度制限も受けることはない。

参照

宇宙論よくある質問』: TM Cosmos

京産大,ハッブル定数問題を理論的に説明』: Optronics

ハッブル定数は定数なのか

『続・相対論の正しい間違え方』 木下篤哉著、丸善出版、令和2年8月28日出版

特定の条件下では光速度を超えているもの

群速度

 複数の異なるパルスを合成した際に生まれる波束の移動速度を「群速度」という。波が伝達する速度は媒質に依存し、限定条件下において、この群速度は真空中の光速度を上回る。 

 2000年には、アメリカ・NEC研究所(NEC Laboratories America, Inc.)が独自に調節したレーザー光をセシウム原子に照射することで、パルスの群速度を光速度の300倍以上にすることに成功している。

 ただし、この現象を利用して情報の伝達を光速度以上にすることはできない。

参照

Beam smashes light barrier』: BBCNews 

Group Velocity』: The RP Photonics Encyclopedia

群速度』: wikipedia

媒質中の荷電粒子(チェレンコフ放射)

 チェレンコフ放射とは、高エネルギーの荷電粒子が媒質中を移動する時、その媒質中の光速度よりも速く移動した際に青白い光を発する現象である。

 特殊相対論では、光速度はどの観測者から見ても一定であるとする光速度不変の原理を採用しているが、これはあくまでも真空中の速度を基準としており、どんな状況でも一定であるとするものではない。

 たとえば水の絶対屈折率は1.33となっており、水中での光速度は真空中の75%、22.5万km/sにまで低下する。この状態ならば、ベータ線やガンマ線など透過力が高く、水と相互作用しない物質などは媒質中の光速度よりも速く移動することが可能となる。チェレンコフ放射は原子炉の核燃料プールや炉心の周辺などで確認することができる。

 2012年には、研究用小型原子炉「TRIGA」の映像が公開された。映像では炉心稼働と同時に発生するチェレンコフ放射を明確に確認することができる。

Triga, Pulse operation, Nuclear reactor 240 MW, 7.12.2012

 また、東京大学宇宙線研究所附属神岡宇宙素粒子研究施設の地下1000mにあるスーパーカミオカンデでは、約5万トンもの純水で満たされたタンクを透過した際に生じるチェレンコフ放射を壁に取り付けた光電子倍増管で検出することで、間接的にニュートリノなどの観測を行っている。

参照

チェレンコフ効果』: wikipedia

光速に限りなく近い現象

ブラックホールが放つジェット

 ブラックホールはその凄まじい重力によって光さえも吸い込む反面、本体となる穴がとても小さいため、吸い込み切れなかった物質が周回運動とともにエネルギーを獲得して外部へと逃れることが可能となっている。その最たる例がブラックホールから吹き出す「ジェット」だ。

 ジェットはきわめて細く絞られた形状をしており、ガス状のプラズマは極限まで加速される。ある研究では「M87」ジェットが光速の6.3倍で運動しているとの計算がなされていた。しかし、実際に光速を超えているわけではなく、これはあくまで見かけ上の速度である。同研究ではX線によるスピードガンを用いることによって正確な速度を割り出し、ジェットの速度は光速に限りなく近いものであり、相対性理論の枠組みを出ていないことを明らかにした。

LHCで加速された陽子

 大型ハドロン衝突加速器(Large Hadron Collider : LHC)はスイス・ジュネーブの地下深くにある直径27kmにもおよぶ高エネルギー物理学の研究を目的とした実験装置だ。内部には粒子のエネルギーを高めるためのブースターが無数に配置されており、それらを正面衝突させることによって通常では観測できないような素粒子反応を見ることができる。

 LHCによって加速された粒子は光速に限りなく近い速度で運動する。陽子を用いた実験では光速の99.9999991%まで加速させることに成功している。これはLHCの直径27kmを1秒間に11,000回以上周回することができるほど速い。また、相対論的効果によって加速された陽子の1秒は7000倍以上に引き延ばされる。

 だが、これ以上に加速させることは理論上不可能だ。なぜなら陽子はわずかだが質量をもっており、これが足かせとなるためである。