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宇宙が作り出した究極、ブラックホールとはどのようなものなのか

ブラックホールのイメージ画像

 誰もが一度はその名を聞いたことがあるのに、誰もその正体を知らない……。その最たる例がブラックホールではないだろうか。

テクノロジーの発達した近未来や宇宙探査を題材とした映画などで主人公を待ち受ける最大の障害として描かれることが多く、特に『インターステラー』(2014)では著名な物理学者監修のもと、しっかりとした科学的考察によって描写されたブラックホールが話題を呼んだ。

では、実際にはどのような性質をしているのだろうか。ブラックホールは一言で表すなら「重力が強すぎて光すらも出てこられない天体」だ。

一般に、ある天体の表面から発射された物体が重力を振り切って宇宙の無限遠まで飛び出す最低速度を「脱出速度」という。地球で上に向かってボールを投げるといずれは降下に転じてしまう。これはボールの運動エネルギーが足りず、重力による位置エネルギーに負けてしまうためだ。例を挙げると、特に多用されている第二宇宙速度は秒速11.2メートル、つまり時速4万キロメートルだ。脱出速度は天体の質量と半径によって決まり、同じ質量同士ならば半径が小さい方が重力が大きくなるので脱出速度も大きくなる。

ブラックホールは内部空間が急速に収縮しているため、脱出速度が光速を上回る。宇宙最速を誇る物質でもやがてはすべての物質が一点に集まった「特異点」に落ちてしまうのだ。ここより内側に入ると光でも脱出できなくなる境界線を「事象の地平面」という。仮に境界線の真上を移動する光があったとしてもブラックホールの内部を周り続けるだけで一生外に出ることはない。ブラックホールは一方通行の弁のような性質を持っているのだ。

なお、ブラックホールは最も単純な構造をした天体でもある。白色矮星や赤色矮星などは表面と呼べるものがあり、強烈な重力に耐えられる肉体があれば一応は降り立つことができる。だが、ブラックホールの内部に降り立てるようなものはない。あるのは密度無限大の「特異点」であり、その実態は謎に包まれている。

宇宙のどこにあるの?

 既知のブラックホールで最も地球に近いのは、1,120光年離れたぼうえんきょう座を構成している「HR 6819」付近にある恒星質量ブラックホールだ

「HR 6819」は他の星との連星系であることが知られていたが、ESO(ヨーロッパ南天天文台)の研究チームがその公転軌道に”ふらつき”があることを発見。ずらしている天体の推定質量が太陽の4.2倍、スペクトルの特徴が検出できない点から「第三の惑星」がブラックホールである可能性が発表された。

ブラックホールの中には「降着円盤」を持たない真っ暗なものもあり、こういったものは周りに恒星がないと存在に気付くのが難しく、天の川銀河の年齢を考慮すれば「隠れブラックホール」がまだまだあると予測されている。

ちなみに、2番目に近いのは約3,000光年離れたいっかくじゅう座X-1にあるブラックホールで、「HR 6819」と同じく三連星である。

ブラックホールのサイズは?

恒星質量ブラックホールと考えられているはくちょう座X-1のイメージ図。credit: NASA/CXC/M.Weiss

 前述したようにブラックホールはかなり単純な惑星である。仮に違いがあったとしても真っ黒なために見分けはつかないだろう。だがそんなブラックホールにも生成過程によって大きさにバラつきが生まれる。現在はブラックホールの質量を定量的に図ることによって3種類に分類されている。

ひとつは、この宇宙で最も一般的とされる「恒星質量ブラックホール」だ。太陽の30倍以上の恒星は寿命を終え、超新星爆発による華々しい最後を飾った後、中性子星になる代わりにブラックホールへと変化する。この過程によって作られたブラックホールは太陽の数倍~数十倍ほどの質量を持っているため「恒星質量ブラックホール」と呼ばれている。

また、太陽の数十万倍~数百億倍の質量を持つブラックホールも確認されており、それらは「超大質量ブラックホール」と呼ばれている。天の川銀河の中心部にも太陽の431万倍の質量を持つ巨大ブラックホールがあることがほぼ確実となっており、他のすべての銀河も超大質量ブラックホールを持っていると予想されている。

銀河の活動に影響を与えるほどのブラックホールがどのように形成されるかは諸説あるが

  • 超巨大な恒星がブラックホールとなった説
  • ブラックホール同士が合体したことで巨大化した説
  • 他の惑星を吸い込んで成長した説

が提唱され、研究が進められている。

また、銀河そのものの質量と銀河中心部にある超大質量ブラックホールの大きさは比例関係にあることが明らかになっている。なぜ銀河の中心部には巨大ブラックホールがあるのか、巨大ブラックホールがあるから銀河が生まれたのか、あるいは銀河があるから巨大ブラックホールが作られたのか。詳しい因果関係は明らかになっていない。

しかし近年になり、この謎を解き明かす鍵を握っている可能性のある存在が注目を集めている。それが最後のひとつ、「中間質量ブラックホール」だ。

恒星質量ブラックホールと超大質量ブラックホールとの間には太陽質量の十万倍もの開きがある。「小さなブラックホール同士の合体によって巨大なブラックホールが形成される」とする説が正しいならば、その途中段階があるはずだ。にも関わらず中間質量ブラックホールは銀河全体を見渡しても異様に少ない。このことは「ブラックホールのミッシングリンク」と考えられてきた。

が、2020年9月にアメリカの天文学誌の「アストロフィジカルジャーナル」に掲載された論文の中で、重力波観測装置を用いて、太陽の66倍と太陽の85倍の質量をもつ中間質量ブラックホール同士の合体の観測が報告された。ブラックホールの進化は天文学の中でもホットの分野となっている。

ブラックホールに入ったらどうなるの?

ブラックホールに突入すると体がスパゲッティーのように引き延ばされる」といった都市伝説を耳にしたことがあるだろうか。これはブラックホールの強力な重力が生み出す「潮汐力」を理論的に計算した結果から導き出された結論だ。

潮汐力とは質量を持つ物質(主には天体)の形を歪ませる力のことだ。地球は球体のため、月や太陽から受ける重力に差が生まれる。すると重力源に近い方が引っ張られて変形が起こる。地球上では流動体である海水の動向が特に注目されるが、固体である地殻もわずかながら影響を受けている。また、天体の物質強度以上の潮汐力が掛かると「ロッシュ限界」を迎えて天体がバラバラになってしまう。

ブラックホールに侵入した宇宙飛行士にも潮汐力がかかることになるが、ブラックホールでは極端に強い重力が働くため、先の例とはまた違った現象が発生する。

ブラックホールに足から落ちていくと仮定しよう。宇宙飛行士の足側は頭側よりも強い重力(潮汐力)を受ける。すると、落下する宇宙飛行士には外部から見て下に強く引っ張られる力がかかることとなり、特異点に向かってまるでスライムのように引き延ばされ、しだいに細長くなっていく。この現象を「スパゲッティー化現象」という。

しかし、すべてのケースでスパゲッティー化現象が起こるわけではない。

シュワルツシルト解を用いた計算により、事象の地平面の半径は質量の2乗に比例し、境界線を越えた場合にかかる潮汐力は質量の2乗に反比例する性質がある。これは、巨大なブラックホールは事象の地平面を跨いだ際にかかる潮汐力が小さくなることを意味している。

例えば、シンクに水を貯めて線を抜くと水が渦を巻きながら急速に排水溝へと流れていくだろう。排水溝の面積が大きいと淵に差し掛かった際の傾きが小さくなるが、小さいと大きくなる。

つまり、銀河の中心部に存在するような超大質量ブラックホール、それもできるだけ巨大なものを選出して飛び込めば何事もなく入っていけるのだ。少なくとも理論上は。

事象の地平面やシュワルツシルト半径は「これ以上進むと光でも帰ってこられなくなる」ことを意味する境界であって、なにも国境線のように明確な線引きがなされているわけではない。おそらく事象の地平面を超えたことにも気づかぬまま特異点への落下していくこととなるだろう。

なお、無事に超えたところでわずか数秒ほど長生きできる以外特に変わったところはなく、最後には他のクルー共々原子レベルにまですりつぶされ、一点に集積され、ブラックホールの養分となる。

ブラックホールは消滅するの?

惑星やガスを手当たり次第に吸い込み、ブラックホール同士の合体で質量を増し続けるブラックホール。周りに食料がなくなり、ひとりぼっちになっても永遠にそこにとどまり続けると思われがちだが、ブラックホールにも終わりはやってくると考えられている。

一般に私たちが思い描く真空は大気やエネルギーが何もない状態だが、量子論的解釈に基けばそこでは物質と反物質が生成と消滅を繰り返している。著名な物理学者『スティーブン・ホーキング』氏はこれと同じことが事象の地平面付近でも起こっていれば、微量ながらエネルギーの放出が起こっていることを指摘した。この現象は「ホーキング放射」として広く知られている。

ここで注意してほしいのが、ブラックホールは今この瞬間に蒸発しているわけではないということだ。

宇宙空間にはビッグバンの名残である宇宙背景マイクロ放射(CMB)の2.7Kが満ちているため、ブラックホールよりも宇宙空間の方がはるかに温度が高い。さらに、熱はより温度の高い系から低い系に移動する。したがって、ブラックホールはホーキング放射によってやせ細るどころかCMBを吸い込んでブクブクと肥え太っていることになる。ブラックホールは今後しばらく質量を増す一方だろう。

ESAの衛星が収集したデータをもとに構築された宇宙背景マイクロ放射(CMB)credit : ESA/Planck Collaboration

だが、それも今後の宇宙次第である。この宇宙が膨張を続け、CMBも絶対零度まで冷え込んだ「開いた宇宙」ならば、排出される熱>入ってくる熱となり、ブラックホールは消滅するだろう(ビッグフリーズシナリオ)。

ブラックホールをカメラにとらえる挑戦

Event Horizon Telescope (EHT)が観測した「M87」のブラックホール・シャドウ。シャドウの面積は事象の地平面の2.5倍と予想されている。credit : EHT Collaboration

そもそもブラックホールとは物理学者たちが「理論的にはこう言った天体もあるのでは?」と提唱した天体であり、存在が確実視されても誰もその姿を収めることができない想像上のものであった。ブラックホール本体も通常の惑星と比較してコンパクトで高性能望遠鏡でも観測は難しい。

そこで天文学者は、ブラックホールの輪郭である「ブラックホール・シャドウ」に着目した。ブラックホールの周辺では強力な重力によって時空が歪んでいるため、そばを通る光が湾曲される。

この際一定まで近づくと「光子球」と呼ばれる軌道に囚われ、180度まわって光源の方向へ戻っていく。それより内側に入った光はブラックホールに飲み込まれ二度と出てこれなくなる。この様子を正面から観測するとドーナッツのようにぽっかりと穴が開いているように見え、ブラックホールの明確な証拠となる。

事象の地平面付近における光子の挙動のイメージ画像 credit : Nicolle R. Fuller/NSF

そして2019年4月、国際プロジェクトチーム「イベント・ホライゾン・テレスコープ(EHT)」は世界中の望遠鏡を用いて人類初となるブラックホール・シャドウの撮影に成功したと発表した。

今回撮影されたのはおとめ座の方向にある「M87」。地球から5500万光年の距離にあり、太陽の65億倍の質量をもつ超大質量ブラックホールだ。シャドウのサイズから事象の地平面の面積は400億kmと見積もられた。

『巨大ブラックホールの謎」本間希樹著(講談社、2017年)

『続・正しい相対論の間違え方』木下篤哉著(丸善出版、令和2年)

『世界一やさしいブラックホールの話』大須賀健監修(宝島者、2021年)

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