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宇宙は無限に明るいはず?オルバースのパラドックスとは何なのか

有史以前から人類は夜空を眺め、天体を観測してきた。時代が進むにつれて建築物や道具などを用いてその世界を拡張し続けている。

アリストテレス(紀元前384~紀元前322)の時代から宇宙は永久不変、終わりも始まりもないものだと考えられてきたが、宇宙が太古から無限に広がっていると想定するとなかなかに厄介な問題が発生する。

それが今回取り上げる夜空?の星々によってどの方向を見ても眩い光で埋め尽くされるはずであるとする「オルバースのパラドックス」だ。

パラドックスの内容

このパラドックスは「宇宙は”無限”の広さをもち、そこに存在する星の数もまた”無限”で、それらは均等に距離を開けている」とする仮定から始まる。

宇宙に存在する星々の密度をd、均等に空いた空間をhとし、地球を中心とした半径rの球殻内から観測できる星の数 S を計算すると

$$\Large S=4πr^{2}dh$$

となる。星はそれ自体では光を発することができない暗い「惑星」や、逆に自ら光を発する「恒星」に分類でき、同じ恒星でも等級によってその光度には大きな差があるが今回は平均的な光度 L を考えることとする。

面光源から見た場合の光源の明るさは光度を光源までの距離で割ることで求めることができるので、一つの恒星から放射される輝度 B は

$$\Large B=\displaystyle\frac{L}{r^{2}}$$

で表せる。さらに、これを無限遠の範囲まで積分すると

$$\Large \displaystyle\int_{0}^{∞}\displaystyle\frac{L}{r^{2}}4πr^{2}dh=∞$$

となる。したがって地球の夜空は恒星から降り注ぐ無限の光に塗りつぶされるはずである

光は距離が離れるほど拡散するため、星の光は距離の2乗に反比例して弱くなっていく。だが、前述の仮定に則れば、それに対応するように恒星の数も2乗に増加するため、結局光の総和はほとんど変化しない(というか”無限”の数の星を前提としているのだから計算結果は無限に拡散するに決まってる)。

では今度は恒星の数が有限である場合を想定する。有質量物質には万有引力が働くため、この場合、重力により一点に向かって”落ち”続けると考えられていた。

しかし、いろいろな天体を観測してもそのような運動は確認されなかったため、その当時の認識も相まって定常宇宙論は多くの支持を集めた。この当時は一般相対性理論も確立していなかった。

つまるところ「宇宙は無限に広く、そこに存在する星の数も無限で、それらは引力のバランスを保ちながら一様に分布している」とする一見妥当な前提から「地球には恒星からの無限の光が届くはず」というありえない結論が導き出される。果たして宇宙は有限なのか無限なのか。これがオルバースのパラドックスの概要である。

※星同士が重なり合い光がさえぎられるため、実際に届く光が無限になるわけではない。

現実の宇宙が暗いのは何故?

もちろん、地球から見える夜空は無限の光などに包まれてはいない。星座を形作る星々の分布はまばらだし、昼間よりも明るいなどということもない。

故にオルバースのパラドックスは間違っている。近代以降の天文学者は前述の前提条件に何かしらの誤りがあると踏んで問題を分解し、議論を交わしてきた。

その過程では現在では考えられないような型破りな説が数多く提案されている。

説➀「エーテルが存在しない空間が存在する」

十九世紀の物理学者は光の正体が”波”であり、音波が空気中を伝わっていくように光も未知の物質を媒質として空間を伝播していると考えられていた。宇宙全体をその物質は「エーテル」と名付けられた。

未来を生きる私たちはエーテルなどという物質はこの世に存在しないことを知っているが、当時はいたって真面目に研究と捜索がなされていた(らしい)。

そこで、「宇宙の一部にエーテルが枯渇している領域があるのではないか」という説が提案された。途中で遮られるならば地球まで光が届かなくても矛盾は起こらない。

しかし、1887年のマイケルソン=モーリーの実験によってエーテル仮説が疑問視されることとなり、アインシュタインの相対性理論でこれまで謎とされてきた現象が説明されたことによりこの説は否定された。

説②「遠すぎる恒星の光は見えなくなる」

光の減衰に関する法則にケプラーが提案した「逆二乗則」がある。物質量の大きさ(影響力)はその源までの距離の二乗に反比例する、といったものだ。

この減衰が宇宙空間などの特定領域ではそれよりも大きい割合で起こるため、遠方にある恒星の光は肉眼では見えないほど弱くなるのではないか、とする説が提案された。

しかし、逆二乗則が宇宙でも問題なく適応できることが明らかとなったため、この説は下火となった。

説③「ガスや塵が光を遮っている」

宇宙空間はほとんど真空であるが、細かい塵のようなものがわずかながらに散在している。それらは現在では星間物質などと呼ばれている。

星間物質の密度が大きく、雲のように見える星雲があるが、その中でも低温、高密度で背後の星の光を遮っているものを暗黒星雲と呼ぶ。

この暗黒星雲が恒星からの光を遮断・吸光しているのではないかとする説が提案された。ちなみに発案者は名前の由来にもなっている天文学者、ヴィルヘルム・オルバースである。

だが、無限の光を吸収したガスや塵は、そのエネルギーを熱エネルギーに変換して吸収量と同等の光(電磁波)を発することが考えられた(=熱放射)。

一時的に光を遮ったとしても、最終的に私たちが受け取る光はあまり変わらないので解決には至らなかった。

観測できる宇宙は有限?

オルバースのパラドックスを最初に解決したのは、詩人のエドガー・アラン・ポーだと言われている(諸説あり)。

ポーの回答をざっくりと説明すると、「光の速度は有限であり、恒星の寿命にも限りがある」ことを前提とすれば宇宙の暗さを説明できる、というものだった。

光速度が有限であるならば恒星の個数が無限でもまだ地球に光が届いていない可能性が出てくるし、太陽のように燃える恒星も悠久の時がたてば燃え尽きてしまうかもしれない。

今この瞬間に138億光年離れた宇宙に恒星が誕生、地球に眩い光を放つとしよう。1光年離れた場所からやってくる光が到達するのは1年後であり、138億光年離れた場所から放たれる光が届くのは138億年後だ。

私たちの宇宙には存在する恒星の数が無限だとしても、光の速度が有限であるがために、こういった遠くの宇宙から向かってくる光はまだ地球には届いていないのである。

この事実を念頭に置けば、オルバースのパラドックスの解決方法が十分に理解できるはずだ。

恒星の寿命を考慮すれば、たとえ宇宙が無限であってもオルバースのパラドックスを回避できることは非常に興味深い点である。ようは冒頭の数式にある∞を否定すればいいのだ。

また、「ハッブル定数に従って宇宙が膨張しているから」とか「宇宙の年齢が有限だから」という回答でも問題ない(むしろこちらの方がパラドックス解消に寄与しているかもしれない)。

・『別冊 Newton 絵でわかるパラドックス大百科 増補第二版』(2021年)