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「時間の流れ」は人によって異なる?双子のパラドックスについて

元の宇宙飛行士の月面着陸で新鮮な治療法の図を探る pngから .pngtree.com/

 本来同じように年を重ねる双子。それが年齢が異なり、しかも兄の方が年上……。常識では考えられない現象だが、光速に限りなく近づいた世界ではこのような奇妙な出来事が起こりうるとされている。宇宙や時間などを題材にした映画などで度々見受けられるあっちとこっちの時間のズレ。今回はそんなパラドックスの一例である「双子のパラドックス」を考えていく。

双子のパラドックスの内容

 あるところに双子の兄弟がいた。

兄はこの広大な未知なるものを探求するために宇宙飛行士の職に就き、弟は一流企業に就職した。

兄の乗ったロケットは地球からはるか6光年離れたH星に向かっており、そこを折り返して地球に戻ってくる。往復12光年の旅だ。

ロケットは科学技術の粋を集めて作られたものでどのような急加速、急減速も可能とする高性能なものだ。

地球に残った弟からロケットを観測した場合、ロケットが超高速でH星まで遠ざかっていき、Uターンして急接近してくるように見えるだろう。相対論的効果によって、高速で移動している兄の時間の流れは遅くなり、再開時には兄の方が若くなるはずだ。

しかし、ここで疑問を抱く人が現れた。

たしかに弟の立場から見れば高速で運動しているのはロケットだけど、兄の立場からみれば地球のほうが高速で動いているように見えるから弟の方が若くなるのでは?」。

兄と弟、それぞれの立場によって全く反対の結論を導くことができる。これが思考実験の一つ、「双子のパラドックス」の内容だ。

老けているのは兄?弟?

 結論を先に述べておくと、双子のパラドックスの正しい回答は「地球に残った弟の方がロケットの兄よりも年を取る」である。

だがどこが誤りだったのだろうか。地球側から見れば自分たちが止まっており、ロケットが運動しているように見える。しかしロケット側から見れば地球の方が運動しているように見える。考え方としては間違っていない。

ではこの兄弟の年齢差はどこでついたのか解決していこう。

「時間の遅れ」は理論によって違ってくる

 このパラドックスを理解するためにふたつの相対性理論について理解する必要がある。まずひとつ目は『特殊相対性理論』だ。

特殊相対性理論は簡単に説明すると、「重力のない空間における慣性系(等速直線運動あるいは静止している系)の運動」についての理論で、以下のふたつを基盤としている。

 ・光速度不変の原理:真空中における光速度(c)はどの座標系から見ても一定である。

 ・相対性原理:すべての慣性系には同じ物理法則を適応できる。慣性系同士は互いに自分が静止していて相手が運動していると考えることができる。

光速度不変の原理はマクスウェル方程式の解を発端として、マイケルソン=モーレーの実験によって実証されている。それと同時にこの宇宙における情報伝達の上限速度でもある。

たとえば、時速50キロで走っている自動車から時速50キロでボールを発射したとしよう。すると外部からみるとボールの速度は「時速50キロ(車)+時速50キロ(ボール)=時速100キロ」で、双方の速度を足すことで計算できる。

では、ボールの部分を光(秒速約30万キロメートル)に変えれば光速を上回る速度をだせるだろうか?答えはNOだ。観測される光の速度は秒速30万キロメートルで全く変わらない。この結果はどんな運動系、つまりは電車、ロケット、同じ速度で移動する光から見ても同様である。これが『光速度不変の原理』の概要だ。

このことは同時にこれまでの常識であるガリレイ変換が誤りであることを意味する。この問題を解決するために新たな相対性原理ではガリレイ変換をローレンツ変換に置き換えている。これによりニュートン力学からはみでていた「光速で移動する慣性系間での座標変換」を扱えるようになっている。

特殊相対性理論の時間の遅れ

 特殊相対性理論によると、光速に近づくほど物体の「時間の流れ」は遅くなる。

等速ですすむロケットと地上にいる管制官を想像してほしい。彼らは光時計をもちいた実験を行っている。光時計とは高さ約30万キロメートルの円柱状の装置だ。底に光源が設置されており、光が上部のセンサーに達するとちょうど1秒カウントされる仕組みとなっている。ロケットと管制官、双方におなじ光時計が配置してある。この光のうごきを観察する。

まず、宇宙飛行士がロケットにある光時計をみた場合を考える。この場合、光は真上にむかって一直線にすすみ、1秒後に上部にたどりつく。対して、地上にいる管制官からロケットにある光時計を観測した場合、ロケットが移動しているため、光の軌道が斜めになる。この斜めの軌道はロケットにのっている宇宙飛行士がみたものよりも明確に長い

光速度不変の原理を念頭において考えると、地上でもロケットでも光の速度は秒速30万キロメートルで一定のため、移動している光時計の光は静止しているものよりも長い距離を移動する必要がある。

したがって、おなじ光時計を使用しているにもかかわらず、地上(静止)にある光時計が1秒を刻んでも、ロケットにある光時計はまだ1秒経過しておらず、ロケットの1秒は地上よりも長いことになるのだ。これが特殊相対論の時間の遅れである。

ここで重要となってくるのが、ロケットにのっている人からみれば、地上の時間のほうが遅れて見えるということだ。相対性原理によると、慣性系にいる観測者同士はお互いに相手の方が動いていると主張する権利がある。つまり、等速で移動しているロケットの宇宙飛行士の立場にたって、地上の管制官の方が移動していると考えることも可能ということだ。

これは片方が錯覚や勘違いをしているというわけではない。相対とは、「一方を基準としてもう一方の運動を推し量る」といった考え方のため、矛盾する意見を間違いとはとらえない。この観測結果はロケット側、管制官側、それぞれ違った立場からみた正しい見方なのだ。

一般相対性理論の時間の遅れ

 特殊相対性理論を提出した10年後、アインシュタインはこれをさらに発展させた『一般相対性理論』を発表した。これがふたつ目の理論だ。

特殊相対性理論が「重力がない空間における”慣性系”」を扱った限定的なものだった一方で、一般相対性理論は「時空と重力」を扱った、加速度系(加速運動をしている)を対象とした理論だ。加速・減速している物体のほか、星の運動などのスケールの大きいものにも適応できる。

一般相対性理論によると、加速・減速運動を行った際に発生する「慣性力」は重力とみなすことができる。慣性とは、静止している物体がもとの状態を保とうとする力のことだ。無重力空間をただようロケットが、急にエンジンをふかして加速すると、宇宙飛行士は進行方向とは逆側に押し付けられる力(いわゆるG)を感じる。この力は力学的に重力と区別がつかない。これを「等価原理」という。

また、重力のはたらきによっても時間の流れは変化する。重力ポテンシャルが低いほど時間の流れは遅くなり、高いほど速くなる。これは地球でたとえると、中心から離れた場所、つまり標高が高い場所では地表とくらべて時間が速く進むことを意味する(重力がつよいほど時間の流れが遅れ、弱いほど速くなる)。

「重力によって時間の流れがかわる」と聞くと仰々しいが、こうした現象は身近な場所でも起きている。

たとえば、東京大学の研究チームが行った実験では、東京スカイツリーの展望台(標高450m)では、地上階よりも時間の流れが速いことが実証された。18桁(100億分の1)の精度で測れる光格子時計を用いた計測によると、生じる時間差は1日あたり4,26ナノ秒。スカイツリーの展望台で64万年ほど暮らしたら1秒はやく死ぬ計算となる。

ほかにも、はるか上空を周回するGPS衛星も重力源である中心部から離れているため、相対論的効果を受けている。生じる誤差は毎秒100億分の4.45秒と非常にわずかなものだが、この違いを考慮しない場合、位置情報は数百メートル以上ズレ続けることとなる。そのため、GPS衛星の内臓時計にはあらかじめ少し遅れて時間を刻むよう相対論的補正が施されている(人口衛星は高速で移動しているため、特殊相対論の遅れも受けている)。

「一般」と「特殊」で時間の遅れ方は違う

 一般相対性理論における時間の遅れは特殊相対性理論のものとは大きく異なる。

特殊相対性理論のものは、観測者同士が慣性系にいる場合にお互いに相手の時間が遅れて見えるというものだった。一方で、一般相対性理論のものは加速系(=重力がかかっている系)にいる観測者だけが一方的な時間の遅れを経験する

慣性系にいる状態では、つりあいを崩す力が加わらないかぎり、速度や力の向きは変わらない。静止している場合でも等速運動をしている場合でも同様にコップの水は微動だにせず、ボールも真下に落ちるだろう。

しかし、加速運動に切り替えた場合にはボールは真下には落ちない。加速したときには後方に、減速したときには前方に落下するだろう。コップも同じ。要するに、加速系では特殊相対論の相対性原理があてはまらないのである

そのため、「お互い様」ではなく「一方的」な時間の遅れが生じることとなる。

双子のパラドックス考察

双子のパラドックスはこの時間の遅れの違いを逆手に取ったものだろう。

ポイントとなるのは、先ほども述べた「特殊相対論における時間の遅れは慣性系に限られる」ことだ。これは片方が静止していて、もう片方が等速運動をしている場合や、両方が等速運動をしている場合を含むが、どちらかが加速系にいる時点で一方的な時間の遅れが発生する。

ロケットが一定速度でH星に向かっているときには兄は慣性系にいる。帰ってくるときも同様だ。しかし、ロケットが方向転換をする際にはエンジンを点火し、速度を変化させなければならない。ロケットが加速系にいる期間は、

 A.地球の重力をふりきるために第二宇宙速度まで加速する期間

 B.H星に近づき、Uターンのために減速をする期間

 C.Uターンを終えて地球へ帰還するために加速する期間

 D.地球に近づき、着陸するために減速する期間

の4つだ。減速する期間は裏をかえせば反対方向への加速ととらえることができる。上記の期間中、宇宙飛行士は「加速度によって生まれた重力」に身をさらすこととなる。この間、相対性原理は破れることとなる。

加速運動にともなう一般相対論的時間の遅れによって、ロケット内の時間は引き延ばされ、その後に慣性系に移行したとしても差がくつがえることはない。

兄の立場でも弟の立場でも矛盾なく、「兄が若く、弟が年を取る」という結論が正しいことが導き出される。

この問題は特殊相対性理論と一般相対性理論の時間の遅れをごちゃ混ぜにした結果現れたものであり、最初からパラドックスなど存在しなかったのである。

まとめ

兄の乗ったロケットには加速運動をする期間が存在する。 加速運動をする物体には重力と本質的に同じ「慣性力」が働く。

重力ポテンシャルの高い場所では時間の流れが遅くなるため、加速/減速を伴う運動の最中はロケット内部の時間が遅れ、大きく水をあけることとなる。

このズレは最後まで取り戻すことができず、結果的にロケットが地球に帰還した際に兄の方が若く、弟が年老いている。

おまけ:特殊相対性理論を用いた考え方

双子のパラドックスは一般相対性理論で考えることで、静止系を明らかにし、よりシンプルな答えを導き出すことができる。

しかし、ロケットが加速運動をおこなうのだから一般相対性原理でしか扱えないとするのは誤りである。加速度系を記述する式がややこしくなるだけで、双子のパラドックス程度ならば一般相対性理論を用いなくとも充分に説明することができる。

例えば、ロケットの速さを光速の60%とし、目標となる星までの距離を片道6光年とする。時間の遅れは相対性理論の計算式、

$$\Large S=\frac{1}{\sqrt{1-(\frac{v}{c})^2}}$$(C=光速、V=ロケットの速度)

 で求めることができる。これにより、弟がいる地球時間では20年経過していても、兄は16年しか経っていないことが求められる(地球の1.25年がロケットの1年に相当)。

兄、もしくは弟がこの間の記録をビデオカメラに収め、お互いに2年間隔で相手の送信する状況を想定する。そして、弟の20年と兄の16年、双方を滞りなく説明することができればパラドックスを解消することができる。

地球から遠ざかる兄から弟に信号を送信する場合、前述の計算により兄にとっての2年は弟にとっての2.5年となる。その間にも兄は光速の60%の速度で進むため、2.5×0.6=1.5(光年)で弟に情報が伝わるのは2.5+1.5=4(年)で4年間隔で受け取ることになる。

折り返して地球に近づきながら送信する場合は、進んだ分だけ信号が届く間隔が短くなる。情報が伝わる速度は2.5-1.5=1(年)で今度は1年間隔で信号が到着することとなる。

したがって、弟は兄が星へ向かって旅立つ8年分の映像を16年かけて観測し、地球へ帰還する映像8年分を4年かけて観測することとなる。

一方で、兄の立場から弟の映像を観測する場合には、兄ははじめの8年で弟の4年を観測し、残りの8年で弟の16年分の映像を観測することとなる。

兄の16年と弟の20年は特殊相対性理論を用いてもきちんと対応しているのが分かる。

だが、この仮説にはターニングポイントとなる目標惑星で方向転換する際に一瞬で折り返したり、ロケットの加速/減速を考慮に入れていなかったりと現実的でない前提が組み込まれている。

・『相対性理論を楽しむ本』佐藤勝彦【監修】後藤涼一【発行者】(PHP文庫、1998年発行)

・『相対性理論 常識への挑戦」Russell Stannard著 新田英雄訳(丸善出版、2013年発行)