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過去を変えることはできない?タイムトラベラーとタイムパラドックス

 未来の記憶を保持したままタイムトラベルを行い、株を買うことができたならば、きっと億万長者になれるに違いない。「こんなこといいな、できたらいいな。」というやつだ。

21世紀に入った現在でもいまだ実現のめどが立っていないタイムマシン。が、ここである問題が浮上する。過去に戻って歴史を改変した場合、自身ないしは自身がいた世界線は一体どうなってしまうのかという問題だ。

すでに確定している過去を塗り替えてしまったら、自身がいた世界にパラドックスが生じてしまう。

これらは総じて「タイムパラドックス」と呼ばれている。

辛かった出来事をなかったことにしたい、でもそれではパラドックスが発生してしまう。今回は、そんなタイムトラベルとタイムパラドックスについて見ていこう。

因果律を巡って

 タイムトラベルの厳密な定義は存在しないが、一般的には「過去、未来を行き来する」ことを指す。設定も様々で、タイムマシンを使用する、何らかの不測の事態、主人公の能力など作品によってまちまちだ。

だが、将来どんなに科学技術が発達しようとも、その前には難攻不落の障害が待ち受けている。特に大きなものが2つ、「親殺しのパラドックス」とブートストラップパラドックスに代表される「因果のループ」だ。

親殺しのパラドックスとは

親殺しのパラドックスは、1931年発売のSF雑誌「Amazing Stories Quarterly」の中で触れられたタイムトラベルに関連するパラドックスだ。1930年代から1940年代にかけて、様々な作品がこのテーマを題材にしている。

タイムトラベラーが自身が生まれる前の時代に戻り、両親を殺害したとする。すると、自身がこの世界に生まれなかったということになり世界から消失する。

となれば、両親を殺害することも不可能となる。両親は何事もなく出会い、タイムトラベラーが生まれる。

生まれたタイムトラベラーはまた両親を殺害すべく過去へとおもむく……といった一連のパラドックスだ。

「親殺し」と名がついているが必ずしも殺害する必要はなく、過去を改変したために元いた過去と改変後の未来に矛盾が生じることが問題となる。したがって過去に干渉する際にはいやがおうにもこのパラドックスと向き合うことになる。

ブートストラップパラドックスとは

一方で、歴史に影響を与えていないにも関わらず、パラドックスが生じる場合もありえる。

ブートストラップパラドックスは、情報やオブジェクトが円環の中で繰り返される時間のループに閉ざされ、そのオブジェクトの作者が実在しないことになってしまう、といった矛盾だ。

こんな例が考えられる。ある日、あなたの机の上に見知らぬものが置いてあることに気づく。どうやらタイムマシンの設計図であるらしい。あなたはそれをもとにタイムマシンを組み立て、様々な場所へ旅をする。満足したあなたは過去に向かい、自分が寝ている間にタイムマシンの設計図を届けに行く……。

これは『あらゆる物事は”原因”があって初めて”結果”が生まれる』と定める”因果性”に明らかに違反している。

相対性理論を生み出したのがアインシュタインであるように、マクベスを書き上げたのがシェイクスピアであるように、このタイムマシンにも必ず製作者がいるはずだ。結果が原因に影響を及ぼすことなどあってはならない。しかし、この例の場合はいくら遡ってもタイムマシンの製作者にたどり着けない。これでは設計図や情報が世界に突然現れたことになってしまう。これを「因果のループ」という。

この2つから見て取れるように、過去へのタイムトラベルは様々な課題を抱えている。未来が過去に干渉できるとなると世界がメチャクチャになってしまう。だが、私たちが今いる世界は理論的矛盾はしていない(少なくとも人類が知っている限りでは)。とすれば、矛盾は何らかの方法で解消されていると考えるべきだ。

次は現在考えられているパラドックスを解消する方法について見ていく。

タイムパラドックスを回避する方法➀「多世界解釈」

 過去に戻り、歴史を変えると矛盾が生じるタイムトラベルだが、これを解決するとっておきの方法がある。それがヒュー・エヴァレット(Hugh Everett)の提唱した量子力学の解釈方法、「多世界解釈」だ。パラレルワールドと同じようなものと考えてもらって構わない。

方法に触れる前に量子力学と有名な猫の例に触れる。1935年にエドウィン・シュレディンガーが発表した論文「量子力学の現状について」の中で取り上げた思考実験だ。

ある箱の中に青酸ガスの入った容器と放射性元素、そして原子核の崩壊を検知してガスの入った容器を破壊する装置を入れる。

原子核が崩壊すれば装置が作動して青酸ガスが箱に充満する。作動しなければ空気は新鮮なままだ。放射性元素の原子核が崩壊する確率は50%だとする。

さて、この箱の中に一匹の猫を入れた場合、箱を開けるまでの間、猫はどのような状態になるのだろうか。

猫の運命は原子核の崩壊と一蓮托生。観測を行うまで、系の状態は『重ね合わせ』となっているのが量子力学の考え方だ。したがって箱を開けるまでは「原子核が崩壊して猫が死んだ状態」と「原子核が崩壊せず猫が生きている状態」が重ね合わせになっているということになる。

箱を開けるまで猫の生死が決定されることはない、とも言い換えることができる。

しかし、そんなことがありえるのだろうか。『半死半生』の状態とは今にもこと切れそうな瀕死の状態という意味ではない。文字通り、死んだ状態と生きた状態が共存しているということだ。当然そんな奇妙な猫はこの世に存在しない。

シュレディンガー博士はミクロの世界で起こる確率的な事象をマクロの物体に適応させることで、量子論の不完全さを示したわけだ。この思考実験がかの有名な「シュレディンガーの猫」である。

量子論の考えでは電子や光子はすべてが曖昧で揺らいでいる。原子核に付随する電子は、地球と月のように一定の軌道を回り続けていると思われがちだが、実際には原子核周辺の空間を液体のように満たしているとされる。

一つしかない状態でも「粒子であり波」の性質を持つ電子などの素粒子は、すべからず位置と運動量を同時に測定することができない(=不確定性原理)。いかなる方法をもってしてもこの曖昧さを回避することは不可能だ。

しかも、自然な状態の電子は”波”のように広がっているが、観測すると途端に”粒”のように一点に収束してしまう。これが物理学者らを悩ませた。

ボーアを代表する反実証主義一派は、「観測者の意識や観測という行為そのものが『重ね合わされた』状態の崩壊をもたらし、波動関数の収束を招く」「その位置は確率的にしか予測できない」と仮定してこの不可解な現象を説明しようとした(=コペンハーゲン解釈)。それに対しエヴァレットは観測とは無関係に可能性の数だけ世界が分岐しており、実際には波動関数が収束しているわけではないと考えた。

実は色々な場所に点在していて、「位置Aに電子が存在する世界」と「位置Bに電子が存在する世界」が分岐し、観測した瞬間にその場所に電子がある世界線にレールが切り替わるというわけだ。

コペンハーゲン解釈では選択されなかった未来がどうなるのかについては考えないが、一方で多世界解釈では観測によって状態が確定した後も分岐した世界は存続される。

このミクロの世界の解釈をマクロ(宇宙観)にまで拡大したものがパラレルワールドになる。

親殺しのパラドックスにまで話を戻そう。多世界解釈に基づいたパラドックスの解決法は、「元の世界と酷似した別の世界の過去に移る」と考えることだ。

直感的にもこれならタイムパラドックスが起こらないのが分かるだろう。

タイムパラドックスは世界を『一本』の線のようにとらえるから発生するのであって、世界が複数本あると仮定すれば容易に解消することができる。

よく似ているだけで自分が元いた世界とは全くの別世界なのだから、親を殺そうが何をしようが問題はない。たとえ別世界でタイムトラベラーが生まれなくとも、タイムトラベラーがやってきた世界が存在している限り矛盾は発生しない。因果律も崩れない。

ただし、「過去が変わっていない世界」も同時に存在することになる上、観測者から見ても並行世界の見分けなどつかないだろうから本来の世界には二度と戻れなくなるだろう。

また、これでは厳密な意味でのタイムトラベルではなく、ただ世界を移動しただけとなってしまう難点がある。

ちなみに、パラレルワールドは観測もできずお互いに干渉もしないため、その存在を証明することは不可能だそう。

タイムパラドックスを回避する方法②「事後選択仮説」

 複数の世界を容認する「多世界解釈」とは違った考えでパラドックスを回避する方法が近年検証されはじめている。

それが「事後選択仮説」。ノヴィコフの首尾一貫の原則に則り、『見えざる手』によってタイムパラドックスが起こりそうな状況はあらかじめ除外され、辻褄が合わせられるとする説だ。

さっきと同様「親殺しのパラドックス」で説明しよう。

タイムトラベラーがタイムマシンに乗り込み、過去に戻って拳銃で両親を殺害しようとする。

すると、使用する弾が不発弾だったり、予期せぬ邪魔が入ったりして絶対に両親を殺害できない……というのが「事後選択仮説」だ。この際、タイムトラベラーが使用する弾丸や拳銃は製造段階で『通常ではありえないほど高確率』で不良品が作製される(この辺りは各々の解釈の仕方によって異なる)。

この事例では過去に影響を及ぼしているが、歴史を変えられたわけではないためタイムパラドックスは発生しない。

他の例としてはドラえもんに登場するのび太の子孫『セワシくん』がよく使われる。

セワシくんは野比一族の現状を打開すべく過去にドラえもんを送り込み、本来のび太がジャイ子と結婚するところをシズカちゃんとくっつけることで運命を変えようとした。

その時にのび太から「運命が変わったらキミは生まれないんじゃないか?」という質問に「歴史が変わってもぼくは生まれてくるよ」と答えている(このセワシくんと改変後に生まれてくるセワシくんが同一人物であるかは不明)。

宇宙を支配する因果律は大変頑固で堅牢で、タイムトラベラーによって生じた多少のズレ程度なら自動で修正される。タイムトラベラーが過去に来ることも歴史に”織り込み済み”ということだ。

タイムトラベラーはいずこに

 ここまで過去へのタイムトラベルに関する矛盾とそれを解消するための方法について見てきた。これらは因果律に逆らう挙動は漫画やアニメで行われるほど容易にはできないことを示している。

まず第一に、相対性の壁がある。時間を逆行するということは、光速度(秒速30万キロメートル)を超えることを意味するが、物体が光速で移動するとその時点で保有するエネルギー量が無限になってしまうため、質量を持つ物体は光の速度を超えることができない。

タイムトラベラーがこの世界に影響を及ぼしたという確たる証拠も存在してない。

以上の要因から著名な物理学者も「過去へのタイムトラベルは不可能」との立場をとるものが多い。

しかし、これらはあくまでも”過去”への移動の話。未来へのタイムトラベルは現代でも可能である。超高速で移動すればいいだけだ

ここでは「時間の流れとは相対的なものである」という認識が重要となる。

だれがどの位置から見ても同じ進み方をするような”絶対的”な時間というのはなく、あるのは観測する人によって変化する相対的な時間のみ、ということだ。

アインシュタインは「物体はスピードや重力場の影響によって異なる時間の尺度を持つ」と説いた。直感的に信じがたいが、論理的な証拠もそろっており、地球にも重力が存在しているため地上と上空でわずかながら時間のズレが観測されている。

1971年10月にキーティングとハーフィールは、高精度な原子時計を旅客機に積んで地球を一周し、地上の時計とのズレを測定した。飛行機は上空を高速で飛行するため双方の効果を測ることができる。

原子時計は原子固有の共鳴周波数を利用した時計で、数千万年に1秒しか狂わない世界で最も正確とされている時計だ。

比較の結果、52,8ナノ秒というごくわずかな時間のズレが確認された。スピードの速い飛行機に乗っている物体が降り立つ先は少し先の未来となる。この現象を利用すれば、光速に近い宇宙船を宇宙に飛ばして何年後かに帰還させれば、搭乗者は未来の地球にたどり着くことができる。

また、地球にいた状態でも新幹線などに頻繁に乗っている人は他の人に比べて時間の進みが遅くなる。もちろんこれらは誤差の範囲内でその時間は1秒にも満たないのだろうがそれでもタイムトラベラーであると言えなくはないだろうか。