Electigmaについて

将来のエネルギー源?ブラックホールを利用する『ペンローズ過程』とは?

銀河の中心に鎮座するブラックホール。

『近づいたものを量子レベルにまで分解し、二度と出てこれない』という特異な性質から「宇宙の怪物」などとも呼ばれる黒い穴です。

そんな危険極まりないブラックホールですが、わたし達の文明にとって頼もしい味方、ないしはエネルギー源にする方法があるのです!!

今回は未来のエネルギー源とも考えられている『ブラックホール発電所』について紹介していこうと思います。

ブラックホールは意外と単純?

ブラックホールは究極の天体です。

寿命を迎えた巨星は自身の重力に耐え切れなくなり、中心に向かってどんどん収縮していきます。

それに比例して星の重力も強力となっていき、ついには光すらも振り切れないほど重力が強くなる天体が出来上がります。これがブラックホールです。

ブラックホールは究極の天体なだけあって他天体や銀河と比べるとかなり単純な天体です。4種類に分類されるモデルしかありません。

1,シュワルツシルト・ブラックホール : 電荷をもっておらず、回転もしていないブラックホール。最初に予想されたブラックホールモデルでもある。

2,カー・ブラックホール : 回転しており、電荷をもたないブラックホール。カーは解の発見者であるロイ・カーから来ている。

3,ライスナー・ノルドシュトルム・ブラックホール : 電荷は持っているが、回転はしていないブラックホール。シュワルツシルト・ブラックホールと同期。

4,カー=ニューマン・ブラックホール : 電荷をもち、回転しているブラックホール。解の発見は一番遅かったが、これは回転が絡むとアインシュタイン方程式が途端に難解になるからである。宇宙最も一般的だとされている。

この4種類の中で回転するブラックホールの場合はその外側に不思議な境界が存在します。同じ場所にとどまることのできない「静止限界(static limit)」とその内側に広がる「エルゴ球」と呼ばれる領域です。

どういうことかというと、内側に引っ張られているロケットでも反対方向に同じ力でガスを噴射すれば同じ場所にとどまることができます。しかし回転するブラックホールの周囲には、強力な重力により空間が光速で引っ張られているためいくらロケットを噴射しても停止することができない境目が存在します。この限界が静止限界です。

また、静止限界と事象の地平面の間にあるのがエルゴ球です。この領域内では慣性系の引きずりと呼ばれる物理現象が起こっているとされています。詳細は省きますが、エルゴ球内部では空間が光速度以上で引きずられることにより、(外側から見て)エネルギーが負となる軌道があると考えられています。

ただ、双方とも事象の地平面の外側なので条件次第で脱出することが可能です。

エネルギーを盗め!魅惑の『ペンローズ過程』

さて、そんなブラックホールからエネルギーを奪い取れるのではないかと考えたのがロジャー・ペンローズ氏です。

彼は1969年にカー・ブラックホールにうまい具合にごみを投下することでエネルギーを取り出すことが可能、という革新的な過程を論文内(現在は限定的な公開となっている)で提唱しました。

妙な話ですよね。一般的にブラックホールにごみを捨てても成長の糧にされるだけでこちらに見返りなどないと考えるのが自然です。ですが、回転するブラックホールの周辺では普通では考えられないことが起こっているのです。

エネルギーを取り出す方法はエルゴ球にモノを投げ入れることです。

今回は簡潔にするために、ごみを搭載したロケットを例に話していきます。

まずロケットをエルゴ球内に侵入させ、カー・ブラックホールの回転方向とは逆方向にごみ投下し、事象の地平面へ落とします。

そして、空になったロケットだけをエルゴ球から脱出させるのです。

こうすることで、投下したごみのエネルギーが負になるため、負のエネルギーを失ったロケットは結果的にブラックホールからエネルギーを奪い、入った時より多くのエネルギーをもって出てくるのですエネルギー保存の法則が適応されることが前提)

-(-1)=1をイメージしてもらえばいいでしょう。

また、投入するごみは何でもいいことも大きなメリットです。

生ごみでも核廃棄物でも全然問題ありません。ですので、ペンローズ過程はエネルギー問題とごみ問題を一気に解決できる方法なのです。素晴らしいですね。

脅威のエネルギー効率

ブラックホール発電が熱い視線を向けられるもう一つの理由がエネルギー効率の高さです。

ここでいうエネルギー効率とは燃料となる物質をどれだけ利用可能なエネルギー(電気や熱)に変換できるかを表します。

アインシュタインの”E=mc2“は有名ですよね。物質とエネルギーは等価。つまり物質をエネルギーに変えることもできるしエネルギーを物質にすることもできる、ということです。(質量を純粋なエネルギーに変換した値を不変質量といいます。)

問題は変換の過程でかなりのロスが発生していることです。基本的にエネルギーは形を変えるごとにさまざまな形態に分散します。しかし、ブラックホール発電ならばそのロスを限りなく抑えることができるのです。

そのエネルギー効率は不変質量比にして約10分の1(10%)にもなると試算されています。これは大変すごいことなのですがこのままだといまいち伝わりづらいのでわたし達の社会を支えている発電方法と比較してみましょう。

今回は燃焼熱(J〔ジュール〕)換算で行きます。(計算が間違っていたらごめんなさい)

スポンサードリンク

ガソリン(オクタン)との比較

100年以上にわたって人類が愛用してきたガソリン。その主成分として知られているイソオクタン(C8H18)です。

オクタンはガソリンエンジンの異常発火であるノッキングを起こしづらいことで知られる一般的な燃料です。

一般的なオクタンが完全燃焼したとすると以下のような燃焼式になります。

1つのオクタン分子からその8倍のCO2が発生していますね。自動車から排出される排気ガスが問題視されている理由はこういうことです。(今回は関係ないですが)

しかし残念なことに、ガソリンを燃焼して得られるエネルギーは不変質量比で約195億分の1程度しか得られません。パワフルなイメージのあるガソリン車ですらほんの僅かなエネルギーしか解放できていないのです。

余談ですが、自動車のエンジンは発生するエネルギーの大半を無駄にしています。エネルギーの観点で見ると自動車は大変効率の悪い乗り物なのです。

スポンサードリンク

原子力との比較

続いて原子力。原子炉で使用されている核分裂反応は人類が手にしている中でもトップクラスで効率のいいエネルギー源です。

核分裂自体は様々な原子で起こりますが、中でも有名なのが「ウラン235」です。核分裂を起こしやすいウラン235は熱中性子を吸収すると、2つの核分裂片に分かれ莫大な熱を発します。原子炉ではこの熱で高圧の水蒸気を発生させ、その蒸気でタービンをまわすことで発電しています。

核分裂または熱中性子の捕獲は確率的に起こるためあくまでも例の一つに過ぎませんが、以下のような反応が起こっています。

※ウラン原子1つあたりのエネルギー

pJ(ピコジュール)とは10-12乗。1Jの1兆分の1です。ミリ、マイクロ、ナノ、その次がピコですね。

さて、この過程で生成されるエネルギーですが、不変質量と比較すると約1,000分の1ほど、0,1%しか放出できていません。極めて短時間の内に莫大なエネルギーを放出できるとされる原子力ですらもこれだけしか取り出せていないのです。

では本命のブラックホール発電と比較していきましょう。

先ほど既述したように、一般的なガソリンエンジンで195億分の1、人類史上最高の発電方法である原子力発電でも得られるエネルギーは1,000分の1ほどです。ですがブラックホールは地球上に存在するどの発電所よりも多くのエネルギーを開放することができます。

加えてその利用方法もごみを落とすだけというシンプルなものです。大量のCO2が排出することも使用済み核燃料のような処分に困るようなものも発生しません。まさに理想的なエネルギー源です。

一方で課題もあります。その最たるものが、このプロセスを実行するための技術的なハードルがあまりにも高いことです。現在の技術力ではブラックホールからエネルギーを取り出すことはおろか、周辺にコロニーを建設することすら不可能でしょう。残念ながらブラックホール発電所を経営できるのは今のところ高度な文明をもつエイリアンだけのようです。

ちなみに、ペンローズ過程でエネルギーを取り出すことが可能であることはすでに確認されています。

グラスゴー大学の物理学者らを中心とした研究チームが、光の代わりにねじれた音波を金属柱に衝突させる実験を行ったところ、音波の増幅が確認されたそうです。これはペンローズ過程における「エネルギーを取り出す行為」に近いものです。

Amplification of twisted sound waves,University of Glasgow-YouTube

最後に

人類はエネルギーとともに発展してきた生き物です。

初めは落雷などで発生した山火事から生じた火を活用していましたが、エネルギーの便利さに気づいた人類は次第に石炭や石油をコントロールするすべを身に着け、原子力を駆使するようになりました。それに伴い人類の社会、文明を発展を遂げたのです。

ブラックホールから無限に近いエネルギーを搾取することができれば、エネルギーをめぐる問題を解決できるとともに人間社会のさらなる発展へと繋がるでしょう

ひょっとしたら人類がこの宇宙で初めての「惑星を操作可能な生命体」になるのかもしれません。

参照文献

・『巨大ブラックホールの謎-宇宙最大の「時空の穴」に迫る』 本間希樹著(Blue Backs、2017年)

https://books.rakuten.co.jp/rb/14759856/?l-id=search-c-item-text-01

・『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』 谷口義明著(光文社新書、2019年)

https://books.rakuten.co.jp/rb/15804463/?l-id=search-c-item-text-01

・ペンローズ過程が理論的は実証可能であることを示した研究

声明 : ‘TWISTED’ SOUND EXPERIMENT HELPS CONFIRM 50-YEAR-OLD SCIENCE THEORY

https://www.gla.ac.uk/news/archiveofnews/2020/june/headline_727690_en.html

論文 : Amplification of waves from a rotating body

https://www.nature.com/articles/s41567-020-0944-3