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ハッブル定数は実際には一定ではなく、時代とともに変化している可能性が指摘される。

今から90年以上前、米国の天文学者エドウィン・ハッブルは遠方の銀河にあるセファイド変光星を観測し、この宇宙が膨張している可能性とハッブル定数(H0)と呼ばれる膨張率を導き出しました。

現在の宇宙論を語るうえで重要なパラメーターとなっているハッブル定数ですが、近年、初期宇宙と後期宇宙の推定値に「明確な差」が生じていることが問題視されています。

この差は天文学や宇宙論における深刻な問題であり、現在の標準宇宙モデルが不完全なものであることを示唆しています。

しかし、実は観測結果は正しいのかもしれません。(どちらとも信頼性があるから問題なのですが)

ミシガン大学の物理学者を含む国際的な研究チームは5月17日、学術誌「The astrophysical journal」に掲載した論文の中で、1,000以上の超新星爆発のデータを解析した結果、ハッブル定数は一定ではなく宇宙が膨張するにつれ大きくなる可能性を報告しました

・研究報告 : The astrophysical journal | On the Hubble Constant Tension in the SNe Ia Pantheon Sample | M. G. Dainotti et al 2021(全文

・Reference : The University of Michigan

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矛盾する推定値

これまで、ハッブル定数は2つの異なる方法で求められてきました。

最も信頼性の高い方法はビックバンの残骸の熱放射であり、天空から飛来する「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」を調査することです。ESAが打ち上げた「プランク衛星」は約3年にわたってCMB観測の任につき、過去最高解像度でCMBを観測することに成功しました。

初期宇宙における温度のムラ(ゆらぎ)をから計算すればH0=67,4±0.50km/s/Mpcでした。これは1Mpc(326万光年)ごとに宇宙が毎秒67.4kmずつ遠ざかっていることを意味しています。

ESAのプランク衛星が検出したCMBのゆらぎ。©ESA and the Planck Collaboration

これとは別の方法でハッブル定数を求めるプロジェクトが「SH0ES」です。このプロジェクトではセファイド変光星Ia型超新星までの距離を求め、宇宙の「距離はしご」を上ることでハッブル定数の精度向上を目的としています。

現状、地球からはるか彼方に位置する天体の距離を計測する統一的な方法がないため、『まず近い天体の距離を測定しそれをもとにさらに遠い天体の距離を測る』ことを繰り返すことで宇宙全体の距離を求めています。一段ずつ徐々に上がっていく様子をはしごに例えて「距離はしご」と呼ばれています。

セファイドは「周期-光度関係」という性質があり、変光周期の長さからその星の絶対等級(本当の明るさ)を求めることができます。得られた光度と見かけの明るさを比べることで天体までの距離が分かるのです。より遠くの銀河までの距離を計測する場合にはより明るいIa型超新星を利用します。

この方法を繰り返していくことで最終的に得られたハッブル定数はH0=74.03±1.42 km / s / Mpcとなりました。

長くなったのでまとめると、ビッグバン直後の初期宇宙から求めたハッブル定数と最近誕生したであろう後期宇宙から求めたハッブル定数が誤差と呼ぶのも苦しいほど食い違っているということです

正しい計算方法をとったにもかかわらず生じるこの齟齬はHubble tension(ハッブル定数における緊張状態)と呼ばれています。

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赤方偏移の間隔で星を分離

一部の天文学者は、精度を向上させ続ければいずれ不一致問題が解消されると主張しています。つまりあくまでもハッブル定数はどの空間内でも一定であると考えているということです。

しかし、本研究では他の可能性を模索しています。研究員であるEnrico Rinaldi氏は以下のように語っています。「この論文では、次のような疑問を投げかけています。ハッブル定数が一定でないとしたら?もしも実際に変化しているとしたら?」

チームは関係性を調べるために、Ia型超新星の最大のコレクションである「パンタオンサンプル(Pantheon sample)」を星までの距離(赤方偏移に基づく)に応じて分割して、それぞれの区画のハッブル定数を算出、比較を行いました。

ハッブル定数が一定だとすればどの時代を比較しても一致するはずです。

なお、今回はΛCDMおよびCMD(冷たい暗黒物質)モデルを前提に推定しており、1つの区画内には同数のIa型超新星サンプルを入れているとのこと。