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一部の精子は「毒」を散布することによってライバルとの競争に勝っている

何億という精子の中から卵子にたどり着けるのはたったの1つだけ。精子間での争いは熾烈を極めます。

しかし、だれが勝者となるのかは運で決まるのでしょうか?

研究は、正々堂々と戦わず、実際にはズルをしている個体がいることを明らかにします。

ドイツ・マックス・プランク研究所の研究チームはマウスを用いた実験により、精子形成の初期段階で他のライバルにとっての毒を放出しており、一部の精子だけが「解毒剤」を生成できる遺伝子をもっていることが明らかとなりました。

その精子が遺伝的に正常であるかではなく、この遺伝子を持っているかどうかで受精成功率が左右されているのだそうです。

研究報告:Plos Genetics / RAC1 controls progressive movement and competitiveness of mammalian spermatozoa:© 2021 Amaral, Herrmann.

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受精競争は出来レースだった?

チームはマウスの個々の精子を分析したところ、「t-ハプロタイプ」と呼ばれる遺伝要因をもつ精子は直線的に運動できることを発見しました。

一方で、「t-ハプロタイプ」を含まない精子は、遺伝的に正常であったにもかかわらず前進する能力が低く、目的地にたどり着くことが困難でした。

チームは、この運動性の違いをRac1と呼ばれるタンパク質と結びつけました。

Rac1は、タンパク質を活性化させる働きを持っており、癌細胞や白血球などの細胞を標的に誘導する機能を持っていることが知られています。

精子にも同様の役割を果たしており、標的への道を示しているようです。

なお、個々の競争力がもっとも高くなるのは最適な量のRac1が活性化されたときであるそうです。

そしてこのほど、「t-ハプロタイプ」を持つ精子はRac1を抑制する毒を放出していることが判明

さらに、それと同時に自身らにのみ作用するその毒の解毒剤を生成していることがわかりました

Rac1を破壊された精子は、運動性が低下し、卵子に向かってまっすぐ泳ぐことができず、その場で堂々巡りに陥ります。

この状況について、論文の著者であるベルンハルト・ハーマン氏は

「参加者全員が毒入りの飲料水を飲むマラソンを想像してみてください。が、一部のランナーは解毒剤を服用しています。」

と、説明しています。

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かえって失敗する場合も…

しかし、必ずしもt-ハプロタイプを持っている個体が有利というわけではないようです。

例えば、通常1本のt-ハプロタイプ遺伝要因が2本あるマウスは、Rac1のレベルが高くなりすぎて殆どの精子が適切に泳ぐことができなくなってしまいます。

また、t-ハプロタイプを全く持っていない正常なマウスの精子もRac1阻害剤を投与されると、徐々に運動性が低下したといいます。

このことから、著者らは精子の運動性はRac1タンパク質が多すぎても少なすぎても低下するため、男性不妊症の原因は異常なRac1の活動にあるのではないかと指摘しました。

この研究はマウスを対象に行われたもので、必ずしもすべてのヒトに当てはまるわけではありません。このことを調査するにはさらなる研究が必要です。

reference:マックス・プランク研究所