初期のヒトは『冬眠』を行うことで厳しい冬を乗り切っていた可能性が浮上

冬の寒さが厳しくなると、植物はあまり育たなくなり、それを食べる草食動物も減少します。また、川の水が凍ってしまうと飲水の確保すらも困難となります。

そこで、飢餓を避けるために一部の哺乳類がとった戦略が自身の体温を限界まで低下させ、代謝を落とすことで必要エネルギーを最小にとどめ、生存に適した環境になるまで待つ『冬眠』です。

ですが、ヒトは『非冬眠動物』に分類され、冬眠を行うことはできません。故にわたしたちの祖先も同様に越冬にあたって冬眠などをせず、他の手段を講じて寒い冬を乗り切っていたと考えられてきました。

しかし今回、スペインの遺跡から発掘された化石に残されていた損傷から、初期の人類は冬眠をすることで極寒に対処していた可能性があることを研究チームが明らかにしました。

洞窟の奥に眠るヒント

スペイン・カスティーリャ・イ・レオン州に位置するアタプエルカ(Atapuerca)には数多くの洞窟が存在しており、その中からはヨーロッパにおける最も初期の人類の骨の化石や道具などが発見されています。

中でも最も有名かつ世界的に重要視されているのは「シマ・デ・ロス・ウエソス(Sima de los Huesos:「骨の穴」)」です。

過去20年以上にわたってシマ・デ・ロス・ウエソスに存在する13mのシャフトの底から掘り起こされた堆積物は多くの考古学的発見をもたらしてきました。発掘された化石は43万年前のものと推察されており、初期のネアンデルタール人かその直接の祖先であるホモ・ハイデルベルゲンシスのものと考えられています。

この遺跡は人類学的、古生物学的に非常に重要な化石の宝庫であり、ヨーロッパでの人類の進化の過程について推察する重要なヒントを提供してきました。

しかし今、研究者たちの手によって、この物語に予想外の『ひねり』が加えられようとしています。

トラキア・デモクリタス大学・歴史民族学部のアントニス・ バルツィオカス氏とフアン・ルイス・アルスアガ氏は、「発見された化石には季節的な変化が見られ、骨の成長が毎年数ヶ月間ほど中断されている」ことを発見。

初期の人類が、限られた食料と体脂肪で厳しい環境下を長期間生き延びるために長期の休止状態に入った結果、骨の発達の混乱として化石に現れたと主張しました。

冬眠の意外なデメリット

生存に適さない冬期を生き残るための優秀な生存戦略『冬眠』ですが欠点がないわけではありません。

まず、「体温を限界まで下げ、代謝を落とす」と書きましたが、代謝を落とすということは「成長を止める」と言い換えることもできます。冬眠している間は体は成長することはおろか、どんどん萎縮していってしまします。

さらに、陽の光が差し込まない洞窟や土の中に長期間いると、骨の健康や免疫力を向上させるビタミンDが枯渇。それにより骨が軟化する危険性もあります。

ですが、冬眠を行う哺乳類にそのようなことはあまり起こりません。クマは冬眠から目覚めた直後でも問題なく餌を探しにいけますし、シマリスは半年前後眠っていても病気にかからず、体も衰えません。

これは『冬眠動物』が長い進化の過程である種の耐性を獲得したためであるとされています。

しかし、ヒトなどの『非冬眠動物』にそのような耐性はありません。そのため、長期間日光に当たらないとくる病や筋肉低下、骨軟化症などの異常が発生します。

チームは洞窟から採取されたヒトの骨化石をマクロ写真、顕微鏡、組織学、CTスキャンを用いて形態を調査しました。

その結果、見つかった骨からは線維性骨炎、褐色の腫瘍、肋骨念珠とそれらの間の隙間、骨膜下の新しい骨など数多くの病変が認められました。

これらの化石化された骨に見られる病変やその他の損傷の兆候は、冬眠する他の動物の骨に残されたものと同じであるとチームは主張しています。

このことから人類の先人たちは、当時の厳しい気候を凌ぐために数カ月の間代謝を遅くして休眠状態に入っていた可能性が示唆されました。

ヒトは冬眠が可能なのか

ですが、謎がすべて解決したわけではありません。

彼らに冬眠が可能だった場合、どうして現代に暮らす人類にそのような機能がついていないのでしょうか。少数民族のイヌイットやサーメは現在でも彼らと同じぐらい過酷な環境下で生活しています。

チームはその答えを脂肪分の多い魚やトナカイに見出しました。冬を乗り切るのに十分な栄養素を提供してくれる存在がいるイヌイットたちとは対照的に50万年前のシマ遺跡の周辺では、十分な食料を確保することができなかったため、冬眠に頼る必要性が出てきたのではないかとしています。

また、彼らは自身の発見が「空想科学小説のように聞こえるかもしれない。」と認めていますが、それと同時に「冬眠は多くの哺乳類が行っていることだ。」と概説しています。

「それは非常に興味深い弁論であり、それは確かに議論を刺激するだろう。」と、ノーサンブリア大学の法医学人類学者パトリック・ランドルフ-キニーはガーディアン紙の取材に答えました。

「しかし、シーマで発見された骨に見られる変化には他にも説明があり、現実的な結論を出す前にそれらの説明を十分にしなければなりません。」

この研究はScienceDirectに掲載されました。

参照:The Guardian