人は「努力が必要な難題を肉体的苦痛と同じぐらい不快」に感じていることが判明

ストレス社会と言われて久しい昨今。困難を乗り越えるために精神的ストレスを抱え、逃げ出したいと思っている人も増えているかもしれません。

ですが安心してください。そう思っているのはあなただけではないのかもしれません。

eLifeに掲載された研究によると、一部の人は「”認知的タスク”と”肌に熱湯をかけたような痛み”を同程度に苦痛」と感じている可能性があり、場合によっては「肉体的苦痛のほうがマシ」と考えていることが明らかになりました。

報酬か、難問か

人間が逃げ道を与えられた場合、精神的な努力を拒むようになることは以前から知られていました。

この問題は少なくとも19世紀から議論されてきたとブラウン大学心理学助教授のアミタイ・シェンハブは語っています。

「わたしたちは20ページに及ぶ作文を書いたり、税金を払うなどの精神的努力が疲れることを直感的に知っているのでしょう。しかし、精神的に疲れる仕事を避けるために人はどこまでやれるのか。これは難しい課題です。」

過去の実験では、研究者たちが難しい問題と簡単な問題のどちらを好むのかを検証したり、難しい問題に報酬をつけた場合はどうかなどをテストしていました。

しかし、肉体的苦痛と比較した検証はあまり行われていなかったため、カナダ・マギル大学心理学部の博士課程の学生であるトッド・ヴォーゲル氏らのチームは、「痛みを逃避の手段とした場合、人は認知的な努力をどう処理するのか」について実験を行いました。

一生懸命考えるよりも火傷のほうがマシ!

実験のため、チームはマギル大学の学生39名(男性10名:女性29名)をボランティアとして集め、被験者の左腕9平方cmに45℃~49℃の熱刺激を与え、それぞれの痛みを0~100の値で評価してもらいました。

0は「痛みなし」で100は「非常に強烈な痛み(または熱さ)」です。

次に「Nバック」と呼ばれる「パソコンのモニターに表示された文字がNつ前に表示されたものと一致するか」という記憶テストを実施しました。例えば「2バック」だと「2つ前に表示されたものと同じかどうか」といった感じです。

このテストは被験者に認知的な努力を強いるとともに、痛みの感受性や記憶力の個人差を均一にすることも兼ねています。

これらを踏まえた上で、研究チームは被験者に記憶テストを実施し、「テストを行うか、痛みを伴う熱を浴びるか」を選択させました。本実験では「Nバック」に5段階のレベルを設け、0をレベル低、4をレベル高としました。

被験者はテストを受けない選択をすることもできますが、取り続けると浴びる熱量も徐々に上がっていきます。

その結果、「人は難題をクリアするぐらいならば多少の肉体的苦痛を受け入れる」ことが判明。

下の図は参加者全体の選択行動を表した図です。色が明るいほど痛みを伴う刺激を受け入れたことを示しています。例えば右下は「簡単なテストと高いレベルの苦痛を比較した場合、痛みを避ける傾向にある」ことを示し、左上は「難しいテストと低いレベルの苦痛を比較した場合、痛みを受け入れる傾向にある」ことを示しています。

すべての試験を平均すると、28%の確率で被験者が痛みを受け入れる選択をしていました。また、痛みを拒み記憶テストを受け続けた人は39名中1人しかいませんでした。

とはいえ、「痛みにはなにか特別なものがある」とヴォーゲル氏は語ります。

チームは被験者が2択を突きつけられた時の意思決定速度を計測しており、『痛みではなくNバックテストを受ける時は比較的迅速に決断を下した一方で、苦痛を選択した場合、一貫して躊躇する傾向にある 』ことを明かしています。

この件についてヴォーゲル氏は「痛みを避けるということは、精神的な努力を避けるということよりももっと根本的なものなのかもしれない。」「あなたが熱いストーブから手を話す時、いちいちそうすべきか否かについて考えることはしないでしょう。」と語っています。

ヴォーゲル氏はインタビューに対し、「これらの実験結果が健康な人とうつ病などの慢性的な痛みや気分障害を伴うものと異なるのかどうか比較することにも興味がある」と語っており、実験にさらなる意欲を示しています。

参照:eLife/livescience