「考える」という能力を持ったヒトはバクテリアなどの単細胞生物とは比べ物にならないほど高位の生物だと思い込みがちです。
しかし、ヒトにはできないことを平然とやってのける生物など自然界にはいくらでもいます。
最新の研究によると、単細胞生物である大腸菌は何万もの個体が”お互いに協力”することでヒトでも迷いそうな迷路を攻略できることが判明。
細菌が複雑な構造物からの逃走能力を持っていることが明らかとなりました。

研究著者の1人であるトラン・ファンによれば、本研究は彼の専門分野と上司から投げかけられた思考実験がもととなっているという。
思考実験というのは彼の先生であるロバート・オースティンに「自分が解けないような迷路を作るように」要求されたもので、ファンはその答えとして「1つの間違った道が複数の間違った道」に繋がる迷路を提案しました。
この過程でファンは「細菌が本当はどのくらい“賢い”か調べる」ために迷路を使った実験を行うことを思いついたといいます。
驚くべきことに、最も単純な生物だと言われている単細胞生物の中には集合することで問題を解決するための機能を獲得することができる種が存在します。
例を上げると、周囲の細菌を集めてバイオフィルムを形成する黄色ブドウ球菌や糸に似た細菌のネットワークをつくり、群れになって“狩り”をするミクソコッカス属などです。
これらの戦略は近くの細菌が仲間なのか敵なのかを見分けられなければ行えない高度なものです。
そのため、一部の細菌は”コミュニケーション”が取れるのではないかと考えられてきました。
それを確かめるべく、ファンは自身が設計した迷路に10個の大腸菌を解き放ち、大腸菌が好きな「チキンスープのような匂いがする濃いスープ」を大量に流し込みました。
すると、10個だった大腸菌は最終的には100万個まで増殖し、約10時間ほどで全体の1%が脱出に成功しました。これは遅いように聞こえるかもしれないがデタラメに動き回ったときと比べて5倍は早いのだという。
また、別のフラクタル迷路に用いて同様の実験を行ったところ、行き止まりに突き当たったバクテリアが塊となり、波動のように自分たちを打ち出すことで周りから押しつぶされるのを回避する光景が観察された。
「間違いなくバクテリアは集団で行動しています」と、ファンは語っています。

バクテリアが迷路を脱出するメカニズムがどのようなものであるにしろ、バクテリアが私たちが考えているよりも高等な生物である可能性を示唆している。
しかしながら、ヒトよりアリのほうが良い成績を収めるテストもこの世には存在するため、この実験のみでバクテリアの評価が変わるわけではありません。
ファンは「バクテリアは本当に素晴らしい問題解決能力をもっています。それを知性と呼ぶべきなのかはわかりませんが」と述べました。
参照:wired / オースティングループ