「てんかん」は世界で最も一般的な神経疾患であり、全世界で約5,000万人が罹患していると言われています。
脳の神経細胞(ニューロン)の暴走によって引き起こされるこの疾患は、日に数十回の発作を経験するケースがあるにも関わらず、検査をしても異常が見つからない場合もあるなど非常に厄介な疾患です。
適切な治療(投薬など)を受けた患者の内、7割は発作が起こらなくなるとされていますが、残りの3割は薬が効かず発作を抑えることが出来ません。
そのため抗発作薬やその他の治療法に変わる新たな管理戦略が必要とされています。
そんな中、モーツァルトのソナタを毎日聞き続けた場合、発作の頻度を減らすことができるという研究が発表されました。
これに関する研究は過去20年に渡って実証されてきましたが、厳密に計画されたものではなかったためあまり気に留められていませんでした。
てんかん発作における音楽の影響
音楽が人間に医学的な影響を与えることは多くの研究が証明しています。
それが連続的な音の響きによるものなのか、それともメロディーや音色の恩恵なのかは不明ですが、研究者はその魔法のような力が「てんかん」にも効果があるのかを検証することにしました。
13人のてんかん患者が1年間に渡るこの斬新な研究のために集められました。
チームはまず患者を2つのグループに分け、片方のグループにモーツァルト作曲の「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K. 448」を3ヶ月に渡って1日1回、毎日聞かせた後、同じ曲のリズムや音程をシャッフルした「スクランブルバージョン」を同様の回数、毎日聞かせました。
もう片方のグループには先に「スクランブルバージョン」を聞かせてから「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K. 448」を聞かせました。
この実験を行う前に参加者全員が3ヶ月に渡ってどちらの曲にも触れさせずにモニターされ、発作頻度を観察してベースラインを定めています。また、実験に影響が出ないように飲んでいる抗発作薬を変えないようにするなど細心の注意が払われました。
その結果、なんと「2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K. 448」を聞いている期間中に13人中12人の患者で発作頻度の減少が見られました。 反対に「スクランブルバージョン」を聞いている期間中には変化が見られませんでした。
「我々の結果は、モーツァルトK.448を毎日聴くことが、成人のてんかん患者の発作頻度の減少と関連していることを示しており、毎日モーツァルトを聴くことが、てんかん患者の発作を減らすための補助的な治療オプションとして考慮される可能性がある」とマルジャン・ラフィエ博士は声明で述べました。
本研究の調査結果は非常に有望なものですが、次のステップとしてより多くの患者を対象とした大規模な実験を長期間に渡って実施する必要があります。
また、同氏は「私たちの目標は、私たちが得た知識を広め、てんかん患者が音楽を聴くことで得られる潜在的な効果を体験できるような機会を作ることに加えて、音楽がてんかんや脳に与える影響についての理解を深める機会を提供できるような新しい研究を行うことです。」と付け加え、さらなる研究のための意欲をのぞかせました。
参照:iflscience / UHN