お湯は水よりも短時間で凍る「ムペンバ効果」が実証される

「特定の条件下では冷水より温水のほうがはやく凍ることがある」という直感に反した現象のことをムペンバ効果と言います。

この現象は古くから存在が知られていましたが再現性が低く、確実に発生するものではないことから未だに原因が解明されておらず、約半世紀にわたり様々な説が提唱され、議論の的となっています。

しかし、カナダ・サイモンフレイザー大学の物理学者、アビナッシュ・クマール氏とジョン・ベクホーファー氏により「ムペンバ効果」が実証されました。

この奇妙な物理学的現象はアリストテレスフランシス・ベーコンルネ・デカルトなどがすでに発見しいました。

しかし、1963年に当時13歳であったタンザニアのエラスト・ムペンバが授業の一環でアイスクリームを作っているときに「冷ました混合液よりも熱い混合液のほうが短時間で凍る」ことを再発見。

この現象をずっと疑問に思っていたムペンバ氏は高校に進学後、外部から招かれた物理学者のデニス・G・オズボーン博士の助けを借りて実験を行いました。実験では沸騰させたばかりのお湯とぬるま湯を同時に冷凍庫に入れてどちらがはやくゴールラインの温度に達するのかを検証しました。

その結果、温度の高い方が低い方よりもはやく凍るケースが多数確認され、彼の名前にちなんで「ムペンバ効果」と名付けられました。

しかし、数々の研究者が追随して実験を行いましたが、すべての実験で同じ結果が得られたわけではなく、時に逆の結果になることがわかっています。そしていずれの結果も再現することは不可能です。

それもそのはず、一言に水と言っても不純物の有無、ミネラルなどの成分の違いなどその種類は地域によって様々。さらに「凍る」ことの定義も意見が別れています。これではとても再現などできないでしょう。

そこで、研究チームは水よりも遥かに単純で安定した物質で実験を行えばムペンバ効果の解明に大きく貢献できるのではないかと考えました。

新しい実験では、「どちらがはやく凍るのか」ではなく「どちらがはやく冷却されるのか」に定義を絞り、ガラスビーズを使用することで成分の問題を解消。水分子に見立てたビーズをレーザーで熱し、冷却することで温度変化の過程を観察しました。

1000回に渡る検証の結果、ビーズにもムペンバ効果が適応されることが判明し、高温のビーズのほうが低温のビーズよりも短時間で冷却されることが明らかになりました。

それに加えて、条件さえ整えば高温のビーズを指数関数的に冷却することも可能であり、極端な事例では低温のビーズが約20ミリ秒かかったのに対し、高温のビーズはその10分の1の速度で冷却されたとのこと。

これまで常識では物体が高温から低温に移行するプロセスは一本道であり、単純な競争ならば冷たい物質に軍配が上がることが予想されていました。

しかし、今回の研究により「冷却プロセスには複数の道が存在し、ショートカットが可能なのではないか」という可能性が浮上し、高温から低温への変化にはかなり複雑なプロセスがあることが明らかになりました。

ベクホーファー氏はこの実験システムを「抽象的」かつ「ほとんど幾何学的」な方法でムペンバ効果をイメージしたものだとPhysics World誌で説明しています。

この研究はnatureに掲載されました。

参照:SFU/SMITHSONIANMAG